湯郷温泉

1200年余の歴史を伝える名湯が源泉地でこんこんと湧き、「塩湯社」が祀られる。その近くには2軒の共同浴場と足湯がある

京阪神からアクセスのよい行楽温泉地

岡山県東部の美作市にあり、湯原温泉、奥津(おくつ)温泉とともに「美作三湯」に数えられる湯郷温泉。1200年余り昔の平安時代初期、比叡山延暦寺の円仁法師(えんにんほうし慈覚大師)が西国巡礼の際、シラサギに導かれて発見したと伝わる名湯で、別名「鷺(さぎ)の湯」と呼ばれている。この湯郷温泉は、中国山地の奥深い山峡にたたずむ湯原・奥津とは趣が異なり、吉井川の大きな支流である吉野川中流部の盆地に位置し、周囲は丘陵に囲まれてのどかな田園が広がる。1975年(昭和50)に、京阪神方面から中国自動車道が美作ICまで開通。高速道路のICに近く、京阪神からアクセスのよい湯郷温泉は、ツアーの観光拠点、行楽温泉地として栄えてきた。また周辺にはゴルフ場が集まり、ゴルフ客の宿泊利用も多い。

湯郷温泉を発見した円仁法師の像が、温泉街の中心部に立つ

湯郷温泉のシンボル的な外湯が「湯郷鷺温泉館」。多彩な風呂を楽しめる大浴場のほか、家族湯も5つありリラクゼーションも充実している

スポーツを取り入れた健康リゾート

平成以降に団体旅行が衰退するにつれ、湯郷温泉はジョギングロード、スポーツプラザやラグビー場を整備するなど、「温泉とスポーツを融合させた健康リゾート」を志向してきた。1994・1995年(平成6・7)に「TIサーキット英田(あいだ)」(現・岡山国際サーキット)で「F1パシフィックグランプリ」が開催された折には、多数の関係者の宿泊地となっている。また2001年(平成13)には、「なでしこリーグ」に所属する女子サッカーチーム「岡山湯郷Belle(べる)」が設立。所属選手がワールドカップやオリンピックで活躍し、「湯郷」の名を全国的に幅広く知らしめた。なお、美作三湯のうち湯郷だけが「国民保養温泉地」ではなかったのだが、近年の取り組みが評価され、2017年(平成29)、湯郷温泉も国民保養温泉地として指定された。外湯も源泉湧出地の近くに、一般向きの「湯郷鷺温泉館」のほか湯治療養向きの「村湯・療養湯」と足湯「ふれあいの湯」があり、日帰りでも良質の温泉が満喫できる。また、9軒の宿のうち好みの3か所の風呂に入浴できる「湯めぐりコースター」(1000円)で、趣向を凝らした宿の風呂巡りも楽しめる。

湯治場として地域の老若男女に親しまれる「村湯・療養湯」。村湯は地元専用、療養湯は源泉かけ流しで濃厚な湯を堪能できる

「湯郷ポケットパークふれあいの湯」では気軽に足湯が楽しめる

吉野川に架かる国道374号線の鷺湯橋が温泉街への玄関口

町歩きも楽しい「おもちゃのまち」

なでしこジャパンの女性選手も愛する湯郷温泉は、肌がツルツルになる「美人の湯」としても知られ、女性に人気の宿も多い。湯郷の宿はタイプが多彩で、それぞれの宿が個性を競っている。さらに湯郷では、近年「おもちゃ」を通しての町づくりが推進され、「あの日のおもちゃ箱 昭和館」「てつどう模型館&レトロおもちゃ館」「現代玩具博物館・オルゴール夢館」「さんぶ太郎のからくり時計」など見どころ・遊びどころも豊富。町なかには食事処やレストラン、カフェなども点在し、町歩きも楽しい。団体旅行向きの温泉地と見られがちな湯郷温泉だが、周辺観光の拠点となるだけではなく、温泉ファンもそうでない人も、大人も子どもも、老若男女が個人旅行で楽しめる行楽温泉地となっている。

ブリキのおもちゃなど1万3000点以上のレトログッズを展示する「あの日のおもちゃ箱 昭和館」で、懐かしい時代にタイムトリップ

温泉街のはずれには、岡山県に伝わる「さんぶ太郎伝説」にちなんだ高さ7.9mの巨大なからくり時計が立ち、湯郷名所のひとつになっている