平戸蔦屋

ポルトガルから伝わり、400年以上愛されるカスドース(5個入り1080円)

お菓子好きの殿様が広めたご当地スイーツ

長崎県北西部に位置し、現在は平戸大橋で九州本土とつながる平戸島。古くからアジアとの交流が盛んで、1550年(天文19)にポルトガル船が来航してからは、西欧の文物とともに日本でいち早く砂糖や南蛮菓子がもたらされた。平戸銘菓として知られるカスドースも、ポルトガル人宣教師から伝えられたとされる。時は流れて1841年(天保12)、平戸藩主・松浦家第35代で茶人でもあった松浦煕(まつらひろむ)は、南蛮由来の菓子のほかに京や江戸の人気菓子なども加えた図録の制作を命じる。延べ3年かけて完成した図録は、100のお菓子がカラフルな絵図とともに紹介され、『百菓之図』と名付けられた。藩主の甘いもの好きはやがて城下にも広まり、平戸には菓子文化が花開いた。今では魚屋さんよりお菓子屋さんのほうが多いともいわれ、カスドースをはじめ、『百菓之図』に描かれた姿や材料を元に復元したお菓子も売られている。

「平戸蔦屋」は江戸時代に松浦家の御用菓子司を務めた平戸を代表する菓子店

500年以上の歴史をもつ九州最古の菓子店

平戸に数ある菓子店のなかでも、最も古い歴史を誇るのが「平戸蔦屋」だ。創業は1502年(文亀2)、現在は24代目当主が伝統を受け継ぐ。店を代表する名菓カスドースは、ポルトガルから伝えられた当時の製法そのままに、一つひとつていねいに手作り。ひと晩寝かせた甘さひかえめのカステラを四角に切り、たっぷりの卵黄にくぐらせ、沸騰した糖蜜に浸ける。最後にグラニュー糖をまぶして完成。おいしさの決め手となる卵は、黄身にこくがある長崎県産の新鮮なものを厳選。糖蜜で揚げるのは、冷蔵設備がなかった時代、卵黄にほどよく火を通し、菓子の日持ちをよくするための知惠だそう。口に入れるとほんのりと黄身の香りが広がり、カステラのふんわりとした食感と砂糖のシャリシャリ感が絶妙。かつてはぜいたく品であった卵や砂糖をふんだんに使ったカスドースは、殿様だけが食べられる「お留め菓子」と呼ばれ、明治以降は皇室にも献上されたという。

本店は16世紀にイギリス商館がおかれていた「英国商館通り」にある

500年以上の歴史をもつ老舗。店舗も風格を感じさせる

歴史的な建物で異国の地からやってきた偉人をしのぶ

カスドースと並んで平戸銘菓として有名なのが、ごぼうのような形をした「牛蒡餅(ごぼうもち)」。米粉と砂糖から作る素朴なお菓子で、440年ほど前に中国の貿易商人が伝えたともいわれる。上白糖と黒糖を使ったものが定番で、平戸では古くから慶弔時や茶席での切り分け菓子として用いられてきた。このほか、松浦家に伝わる『百菓之図』から復元した「花かすてぃら」、平戸産のミネラル豊富な塩を使った「今平戸(こんぺいとう)」、地酒「長崎美人」を使用したチョコレートなど、「平戸蔦屋」では新しいお菓子作りにも取り組んでいる。

『百菓之図』にも登場する「牛蒡餅」(3本入り226円)。もちもちとして上品な味わい

「今平戸」756円。コンペイトウはポルトガル語のコンフェイト(砂糖菓子)が語源

「平戸蔦屋」を訪れたら、その建物にも注目してみよう。400年以上前に造られたこの屋敷には、日本では三浦按針(みうらあんじん)の名で知られるイギリス人ウイリアム・アダムスが暮らしていた。按針はオランダ船の航海士として1600年(慶長5)に来日し、徳川家康に外交顧問として重用された。晩年はイギリスへの帰国を望んだが、願いは叶わず、ここ平戸で生涯を終えた。歴史のロマン香る店内で、遠く異国の地から伝わり日本に根づいたお菓子を味わってみたい。

「按針の館」と呼ばれる建物。奥の和室で購入したお菓子を味わうこともできる