寳登山神社

緑のなかに荘厳なたたずまいを見せる社殿。正面を飾る龍の彫刻が見事

御鎮座1900年を迎えた由緒ある神社

寳登山神社はおよそ1900年前に、日本武尊(やまとたけるのみこと)がその山容の美しさにひかれ宝登山に登り、神武天皇・山の神・火の神を祀ったことに始まると伝えられている。その後、1113年(永久元年)に仏僧の圓空(えんくう)が宝登山大権現を感得し、玉泉寺(ぎょくせんじ)を開基。大権現とは仏が神の姿をして現れた尊体で、代々、玉泉寺の住職が宝登山大権現を祀っていた。明治の神仏分離により寳登山神社と玉泉寺とに分かれたが、現在も互いに尊び崇め合い、日本の伝統である神仏習合(しんぶつしゅうごう)の姿を伝えている貴重な神社だ。

二の鳥居から社殿を望む。境内には清らかな空気と時間が流れる

年間100万人もの参拝者が訪れる人気スポット

長瀞駅を出るとまず目に入るのが、真っ白な大鳥居と広い参道。約1kmにわたって続くゆるやかな上り道の先に、宝登山がそびえる。境内の入り口には、1924年(大正13)に昭和天皇のご成婚を祝って植樹された「相生の松」がある。クロマツとアカマツが仲むつまじく寄り添う姿から、夫婦円満や良縁成就を願う人たちのお参りスポットとなっている。

縁結びスポットとしてカップルや女性に人気の「相生の松」

その先の二の鳥居をくぐり、長い階段を上った先が拝殿。現在の社殿は、神社別当であった玉泉寺住職の榮乗(えいじょう)が、幕末から明治維新後の激動の時代に心血を注いで完成させた壮麗な社だ。拝殿と本殿が一体の権現造りで、2009年(平成21)に装飾の色を塗り直して鮮やかな姿がよみがえった。正面に5体の龍、奥に孔雀と鳳凰、側面に二十四考(親孝行な24人を取り上げた中国の書物)がモチーフとして彫刻されている。

色鮮やかな彫刻。本殿裏には出世を表す登竜門の彫刻があるので探してみよう

さまざまな神さまをお祀りする境内を歩く

社殿の脇にある授与所で、神札や御朱印、お守りをいただける。本殿裏の登竜門の彫刻にちなみ、祈りが成就するようにと鯉と龍があしらわれた「吉祥寳守(きっしょうたからまもり)」が特に人気。本殿の裏手には、日本武尊が登山前に身を清めたという「みそぎの泉」が今も湧いていて、格子越しに拝むことができる。

「玉の泉」とも呼ばれる「みそぎの泉」は神聖なスポット

日本武尊や菅原道真公をお祀りする社にお参りしながら、奥へと歩いて行こう。うっそうとした木々のなかに宝玉稲荷神社が姿を現す。倉稲魂命(うかのみたまのみこと)をお祀りする社で、商売繁盛・家内安全に御利益があるほか、紛失物があるときにお参りすると出てくるという言い伝えがあるそうだ。さらにそこから赤い鳥居が並ぶ階段を下ると、玉泉寺の本堂前に出る。

森の緑に囲まれ、神秘的なたたずまいを見せる宝玉稲荷神社

ロープウェイで宝登山の頂にある奥宮へ

境内の散策を終えたら、標高497mの宝登山頂にある奥宮へもぜひ参拝したい。本殿から歩くと1時間ほどだが、ロープウェイなら山麓駅からわずか5分で山頂へ。山頂駅からは徒歩約6分で清らかな空気の流れる奥宮に到着する。ここは日本武尊が登頂した際に山火事に遭い、山の神が犬を遣わし火を消して尊を救けたところとされる。神犬は正式には大口真神(おおくちまがみ)と呼ばれ、「お犬様」という名で親しまれている。

「お犬様」の狛犬が迎えてくれる奥宮。天候によっては霧に包まれることも

宝登山の名称の由来は、律令時代に和銅の精練所である火床(ほど)が多くあったからとも、日本武尊が山火事にあったときに神犬が現れて火を止めた故事、火止(ほど)によるともいわれる。奥宮のある山頂は神々しい霊気に満ち、また秩父盆地と山々の雄大な風景に心が洗われるようだ。