白米千枚田

日本海に臨む急斜面に残る日本の原風景

能登の里山里海が2011年(平成23)、日本初の世界農業遺産に認定された。その象徴となるスポットが白米千枚田だ。日本海に面した斜面にいくつもの水田が重なる棚田は、まさに日本の原風景といえる。

海と空を望む斜面に棚田の畝が幾何学模様を描く。先人たちが築き、守り続けた絶景だ

白米千枚田は、朝市で賑わう輪島市中心部から東に少し離れた場所にある。輪島ふらっと訪夢から路線バスで約20分、日本海に面した高洲山のすそ野に幾何学模様を描く棚田が広がる。約4万平方メートルの範囲に1004枚の小さな田が並ぶ景観は、「国指定名勝」となっており、「つなぐ棚田遺産」にも選ばれている。青い海から潮風が吹き抜け、緑の稲穂を揺らす様は、日本人の琴線に触れる景観だ。田に水が引かれ、太陽の光をキラキラと反射する春、稲穂が豊かに実りこうべを垂れる秋など、季節ごとに異なる棚田の表情も魅力的。海に沈む夕日に斜面一帯が赤く照らされる夕刻の光景も美しい。

田んぼの周りには歩道が整備されており、歩いてまわることもできる

白米千枚田が最初に整備されたのは江戸時代初期だったが、1684年(貞享元)に発生した地すべりで大半が失われた。現在に近い姿となったのは、明治に入ってから。平地が少ない奥能登のハンデを克服するため、急斜面を海の間際まで切り開いた。田1枚の面積は平均18平方メートルと極めて小さく、「田植えしたのが九百九十九枚、あとの一枚蓑(みの)の下」との古謡が地元に残る。田んぼが1枚見当たらないので探してみたところ、地面に置いてあった蓑の下に隠れていたとの逸話だ。そんな地域の宝に磨きをかけ、新たな魅力を加える事業として、白米千枚田を夜間ライトアップする「輪島・白米千枚田あぜのきらめき」が毎年秋から冬にかけて実施されている。

「あぜのきらめき」でライトアップされると、いちだんとロマンチックに

狭小な棚田は耕運機などの機械を入れることができず、現在でも農作業はすべて人の手で行っている。里山里海の象徴である棚田を保全し、先人の苦労や米作りの大切さを実感してもらうため、地元では棚田のオーナー制度を導入している(例年1月頃から約200組募集)。オーナー会員になると、マイ田んぼにオーナー名の標柱を立てることができ、さまざまな農作業も体験でき、会員特典として千枚田で育った米も贈呈される。機械ではなく、天日でじっくり乾燥させる「はざ干し」の米は食味が増し、土地のおいしさがぎっしり詰まっている。また、田は持てないが、農作業を体験でき、収穫米プレゼントの特典もあるトラスト会員も募集する。白米千枚田を訪れ、興味を持った方は参加してみよう。

刈り取った稲の束を天日でゆっくり乾燥させる「はざ干し」。地元住民やボランティアの手でうまい米作りが守られている

白米千枚田には、道の駅千枚田ポケットパークが併設されており、車で奥能登観光を楽しむドライバーが休憩スポットとして、お土産購入スポットとして大勢立ち寄っている。店内には、地元食材をふんだんに使った名物、名産がいろいろ。人気メニューのひとつが、棚田米おにぎりだ。具材として一夜干ししたイカのゴロ(内臓)やフキを甘辛く煮たきゃらぶきなど5種類を楽しめる。地元民のソウルフード・かかしや千枚田コロッケ、種類豊富なソフトクリームなど小腹がすいたときにぴったりなメニューも充実。さらに、千枚田で収穫したお米を購入できるほか、地元で人気の塩せんべいや工芸品などが並ぶ。

道の駅千枚田ポケットパーク。手軽に楽しめるフードメニューが幅広くそろう